• 体育大会

    行っていた高校は
    体育祭ではなく
    体育大会と呼んでいた。

    祭りではない、大会だ。
    本気でやれということだった。

    練習は厳しかった。
    その中でも
    組み体操は特に厳しかった。

    練習を休むと後方へ回される。

    あーだるいとか思いつつも
    後方へ回されたくはないので
    どうしても頑張ってしまうのだ。

    組み体操の練習の日
    超真面目なS君が体操服を忘れた。

    ちなみに体操服がないと
    練習には参加できない。
    そんな決まり事もあった。

    普段なら先輩か後輩にでも
    体操服を借りに行けばいい。

    でもその日は
    全校生徒一斉練習の日だった。

    ついてない。
    ついてないぞS君。

    それでも諦めずにS君は
    貸してくれる人を探し続けた。

    僕たちは校庭に並んだ。
    ただしそこにS君の姿はなかった。

    体操服を忘れたのはS君だ。
    仕方ない、悪いのはS君だ。

    誰かのことを守ろうとか
    思えないくらい練習は厳しかった。

    そうかS君、だめだったか。

    誰もがそう思った時
    遠くからS君が走ってきた。

    ランニングで必死の形相をして。
    走るランニングではない。
    真っ白なランニング姿である。

    下には見たことのない色の
    ジャージ的なものを履いている。

    待ってくれ、S君。
    女子の悲鳴が聞こえるぞ。

    その悲鳴につられて
    何事かと誰もがS君を見ている。

    そんな中、S君は何事もない顔で
    空いていた自分の位置に入った。

    そうか、
    何事でもないのかも知れない。

    必死で頑張っている人がいる。
    ただそれだけのことだ。

    真剣だから頑張っている。
    後方に回されたくない気持ち。
    僕たちにはわかるぞS君。

    逆にS君のおかげで
    全体の士気が上がった気さえする。

    でも何故だろう。
    S君はもともと最後尾だった。

    同じことをしていても
    頑張る理由なんて人それぞれである。

    そう教えてくれたS君は元気だろうか。

    体育大会の練習の中
    S君だけは祭りしてたなぁ。